Cuさんのオタク日記

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統治行為論 VS 森久保乃々

この記事は統治行為論アドベントカレンダー 1日目の記事です.

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僕の名前は棟知古ウイ(とうちこうい),修論がうまく書けずに神保町で徘徊していたら,アイドル事務所のプロデューサーを名乗る男から「君,プロデューサーやってみない?」と言われてからこの346プロダクションに入社することになったんだ!

普通それってアイドルになりませんかって聞くやつだと思うんだけど,やっぱり数学科出身なだけあって体力には自信がなく,プロデューサーでよかったかな~って思っているんだ.

上司の話によると,僕は新人アイドルとタッグを組むことになるらしい.そしてその初顔合わせが今日ってことだ.

 

このドアの向こうに新人アイドルがいるらしい! さあ顔合わせだ!

「初めまして!」

「ひゃ,ひゃあ!」

「僕の名前は棟知古! 今日から君のプロデューサーになります.よろしくね」

「あうぅ,あ,あの……」

「森久保乃々さんで合っているよね?」

「は,はい……もりくぼは森久保ですけど……そんなことより……プロデューサーさん? いきなりで申し訳ないのですけど,私,アイドル辞めたくて……」

「なるほど! 分かった! ……って辞めたい!?」

いきなりすごいアイドルを任されてしまった…….

 

森久保さんの主張はこうだ.

叔父の頼みで撮影の代役をしたところ,ちょうどそこにいた上司と叔父さんで346に所属する話が進んでしまい,流れで所属すると約束をしてしまったものの,やっぱり怖くてやりたくないそうなんだ.

「だから森久保は無理で……」

「本当に,無理?」

「ほ,本当にむーりぃー…….だ,第一アイドルなんて人前に出る仕事,もりくぼには向いてないですし……」

なんてことだ.いったいこのプロダクションのアイドルスカウトはどうなっているんだ.こんな嫌そうにしている娘までアイドルにしようだなんて…….

でもこの娘,かなりの美少女だ.きっと磨けば光る……そう直観した.

「まずは少しずつ簡単なお仕事からやってみないか?」

「す,少しずつですか……? い,いや量がどうとかそういう問題じゃ,なくてですね…….むーりぃです……」

「そうか……」

本人が無理って言うなら無理強いできないよな…….上司には僕から謝るか.

「じゃあ,無理は言わない───」

その時,ふと指導教員の言葉は思い出した.

 

『とうちこくん,無理っていうのはね,臆病さなんだよ.キミは博士なんて無理ですって言っているけど,それはどうしてだったかな?』

修論ですらまともに書けないんです.これ以上研究を続けたって……』

『論文が書けないことのナニが怖いんだい? 確かに研究者というものは論文を書かねば何もしていないのと同義だ.でもね,キミはまだ若い.Twitterを見たよ.14歳JCなんだってね.まだまだ人生始まったばっかりじゃあないか』

『うう……』

『論文が書けないのはただの現状であって,そこに対して「こんなんじゃあやっていけない」と結論を下しているのはキミ自信だ.事実と予想を一緒くたにしてはいけない.キミはその事実で満足するのかい?』

『い,いえ……』

『事実をそのまま受け入れて自分の理想をあきらめるのもよいけれども,事実を,自分の理想に捻じ曲げるっていうのもやってみる価値があると思うよ』

 

そうだ……目の前にいるこの娘は,過去の僕自信なんだ.

「いや……森久保さん.君はなんで叔父さんの代役のお願いを受けたのかい? それって君自身がアイドルとして輝きたいってことなんじゃないのかい?」

「え,えーっとそれは,その……断れなくて……」

「いや断らなかったんだ! 君はアイドルをやりたい!」

「ひゃ,ほ,ほんとにちが」

「森久保さんならできる.やりたいと思っていることから逃げちゃダメなんだ! ほら,繰り返して! 『アイドルがやりたい!』って!」

「え,プロ」

「アイドルがやりたい!」

「あ,アイドルが,や,やりたぃ! い,言っちゃいました……」

「よし! じゃあこの契約書にサインして!」

「あの……その……ま,待ってください……無理ですって」

「あ,筆記用具がないんだね! はい,このペン使って」

「あ,ありがとうございます……じゃ,じゃないですけど~」

 

こうして森久保乃々さんは僕の担当アイドルになった.

 

サインをし終えて涙目の森久保乃々さんを見て,ふと自分の中に変化があることを感じた.そっか……僕やっぱり研究がしたいんだ……!

「森久保さん,ありがとう.これで僕は踏ん切りがついたよ」

「え,な,なんですか……?」

森久保乃々さんに貸したペンをひったくると,即座に近くにあった裏紙に「退職届」と書いた.

「え,ぷ,プロデューサーさん……? なにしているんですか……?」

「君のおかげで大学に戻る決心がついた! ありがとう森久保さん! 僕も頑張るよ.お互いにトップ目指して頑張ろう! じゃあ」

 

こうして僕は退社した.

 

それから森久保乃々さんは……いやもう乃々って呼んでいるんだけど,乃々はテレビで大ブレイクし,おどおどしながらも歌番組やバラエティーの仕事をこなしている.ソロ曲『もりのくにから』『なみだのくに』はその独自性が評価され,レコード大賞も受賞した.

一方僕はというと,幾何的統治行為論の定式化に成功し,29歳という若さでフィールズ賞をいただいた.さらに経済への応用に目を向けられて今年ノーベル経済学賞をいただくことになった.

 

授賞式には同伴者を1人連れて行くことができるらしい.

そこで僕は自分が担当している乃々と一緒に授賞式に行くことにしたんだ.

 

そう,別に退社したってアルバイト的な感じでプロデューサーをさせてもらたんだよね.

 

晴れて「ふくしのくにへ」向かうことになった……と思いきや空港に乃々が来ない!?

急いで電話を掛けると

『海外なんてむーりぃーです! もりくぼは英語話せないんですけど……』

全く,ウチの担当は困ったものだ.

スウェーデンには森があるぞ.絶対に楽しい.ほら,どうせ空港のどこかに隠れているんだろ.さぁ,かくれんぼだ!」

 

森久保との旅は続く…….